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木畳から《キタタミ》、その始まり

  • 木彫を主に手がける彫刻家として、長年多くの樹種に接し、制作をしてきた。アトリエには、作品制作の残りの材や、譲り受けたり、買い求めたりした木材が積まれている。何かを作るにしては少量な板材も多い。縁あって集まってきたこれらの木材に、なんとか命を吹き込んで作品として成立させられないものかと考えていた。


    木の塊は結晶だと思うことがある。結晶ができるまでは、石ができるように長くはないが、私たちの人生よりも長いものが多い。手持ちの木材の年輪を数えれば30年から100年くらいで、特別な材料というわけではないが、200年を超えるものもある。その木の塊は、想像が及ぶ身近な歴史くらいの時間を閉じ込めた、結晶体と呼べるだろう。外側の年輪に刻まれた時間は、私たちが生きてきた数年から数十年の時間と重なっている。多様な樹種を使い、パーツを組み合わて作品を構成することで、私たちはそれぞれの木が持つ時間との共有を感じ、私たちも生命体の一つであるとの思いを強くするのではないか。振り返れば、自身の木に対する愛着の元もここにある気がする。

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  • 1ピースは、少し縦に長い六角形で幅42cm、中央が膨らんでおり厚みは5cmから14cm程度。自然界にある結晶の形(玄武岩柱、亀の甲羅など)をモチーフとした。全体はその約10倍の面積となる96ピース、半数以上は1枚板から作る予定だが、ウメやマキはそもそも大径木がないから組み合わせて作り、板の厚みや幅がないものも同様にする。他に、スギ、ヒノキ、アカマツ、タモ、ナラ、ケヤキ、ニッケイ、カシ、クルミ、シナ、クス、カエデ、サクラ、ブナ、ユリノキ、クリ、マカバ、輸入されたものではウォールナット、チーク、ローズウッド、黒檀など20種類以上の樹種で作られる。色も様々で、黒檀は黒く、カエデやシナは白っぽい。肌触りのよいスギやヒノキの重量は軽く、カシは10kgを超えて頑丈。様々である。1ピースしかできない樹種もある。

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  • 42cmは、まとまった枚数でなんとか作れる最大限の幅。生活の中で出てくる木材のスケール感としては大きな方だから、全96ピースを組み上げてその上を歩けば、その壮大さに身体のスケールが少し小さくなった感じすら受けるだろう。目に映る世界はさながら木の色の絨毯で、樹種の違いによる肌触りのわずかな違いも感じられるかもしれない。そんなに難しいことではない。軟らかいスギは温かいし、堅いカシはひんやり感じるのだ。ここで得た感覚は、この先の生活において、身の回りの物に対する感度を上げることにつながるのではないか。その装置ともなりえる。それはこれまでよりも木のことを知る機会にもなると思うし、それ以上に、作品の上に乗り、歩くのを楽しむことが、鑑賞者の身体性を刺激し、感度を上げ、より楽しい日常を営むきっかけの一つになればと思っている。

    石上 和弘

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ki.tatami.project について

ki.tatami.project とは、あなたの身近な場所に《キタタミ》のピースを貸し出すプロジェクトです。完成したピースを希望者に貸し出し、自宅などプライベートな場所に置いて生活を共にしてもらいます。その後再び集結させて、全体をギャラリーで展示、ウェブ上でも公開します。製作過程を含め、作品の見方や楽しみ方を、従来よりも拡張させて、新たな鑑賞体験を提案し、美術に対する親しみを、暮らしの中の文化の一端として深めることを目的としています。 【貸出の詳細・お申し込み】

  • 《キタタミ》のピース作例

    北海道産マカバ、近所の木工所がしまるにあたり、譲り受けたもの。
    表面は木の色がよく分かるのと染みこむ汚れを止めるため、天然オイル仕上げという塗装を施している。(安全な仕上げ方法)
    六角形のエッジは少し丸みを作り、質感の柔らかさと安全性を出している。
    作品の一部ではあるが、貸出中の自然な汚れやキズは気にせずに親しんでほしい。